記事 奇跡は起きる

卒業生のローラは重病を克服し、セラピードックと共に人に貢献するプロジェクトを企画。人々に奇跡を届けた。          

ミンディ・サリバン

ランドマークワールドワイドの卒業生ローラ・ボトフェルトは35歳のとき重い病気で入院した。そんなある日、一つの光景がローラの脳裏に焼きついた。病室の外をゴールデンレトリバーの尻尾が通り過ぎて行ったのだ。それが現実のことかどうかも定かではなかったが、おかげでローラはとても慰められたという。犬好きのローラは、もし退院することができたら、今度は自分が誰かにこんな慰めを与えようと心に誓った。

それから何年かが経ち、ローラはランドマークワールドワイド社の「エフェクティブネス・シリーズ」というセミナーに参加した。参加者は、自分の人生の大切な分野でプロジェクトを作ることを求められる。どんなプロジェクトにしようか思案していたときのことを、ローラは笑顔で、「車庫の掃除か、犬関係のことにするつもりでした」と語ってくれた。そのときふと、何年も前の自分の誓いを思い出したそうだ。ローラは、このプロジェクトが世の中に違いを提供できるという可能性を創作して、プロジェクトを「癒しのエキスパートドッグ」と名付けた。

この頃ローラはスタンダードプードルという種類の犬を飼っていたが、その犬はすでに13歳になっており、ローラが目指す活動には年を取りすぎていたし、性格も向いていなかった。そこでローラはプロジェクトの始まりとして、犬のことや犬の性格について徹底的に学ぶことにした。犬の里親探しの施設でボランティアを開始し、まず、保護されていたスタンダードプードルを一頭引き取った。そしてこの犬を訓練し、セラピードッグの認定を取得して小学校訪問に伴うようになった。

ローラはもう一頭スタンダードプードルが欲しかった。しかし彼女がイメージするセラピードッグに育て上げるには、特別な資質を持った犬が必要だった。インターネットで調べると、アラバマ州にあるプードル訓練農場が見つかった。この農場のオーナーは、ドッグショー用ではなく、介助犬に適した性格のスタンダードプードルを育てると心に決めていた。ウェブサイトを見たローラは、これは最高級の犬の育て方だと思い、大いに興味をもつ。自分の目で確かめるべく、アメリカ大陸を横断してはるばるアラバマ州まで出かけることにした。

農場に来てみて一番印象的だったのは、ここの犬たちが、ローラが予想していたような「お上品な」プードルではなかったことだ。このプードルたちはのんびりしているし、周りに馬や豚や山羊がいても堂々と落ち着いていた。この農場では子供たちが仕事を手伝っているし、犬たちもドッグショー用の犬のような特別扱いは受けていなかった。犬たちは、人間をサポートするその他の職業犬(*訳注)たちと同じように走り回ったり遊んだりしていた。

* 訳注) 牧羊犬、警察犬、軍用犬、盲導犬、介助犬、地雷探知犬など。

ローラは、この農場でアポロ君と出会った。アポロは、淡いアプリコット色をした大きなスタンダードプードルで、本物の犬というより特大のぬいぐるみのように見える。この日、ローラの家に引き取られ、二人の新しい旅路が始まった。

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プロジェクトが動きだした当初、ローラは病院への訪問を避けていた。行けば、入院していた頃を思い出し不安な気持ちが甦ってくるのが分かっていたからだ。それでもっぱら、アポロと一緒に学校を訪問して子供たちと本を読むという活動をしていた。学校での人気が高まってくると、ある日保護者の一人から地元の大きな医科大のプログラムを訪問してみるよう勧められた。ローラによれば、病院を初めて訪問した日、彼女自身はピリピリしていたけれども、アポロの方は少しも動じる様子がなかったそうだ。病院の様々な物音や刺激、叫んだり泣いたりする人々、物が落ちたり、車椅子のような見慣れない物があっても、アポロは家にいるかのようにくつろいでいた。大人も子供も、病院の職員も、ローラとアポロを気に入り、今後も訪問を続けてほしいと頼んできた。

これらの達成はすべて、ローラがランドマークの「エフェクティブネス・シリーズ」の中で設定していた「到達すべきマイルストーン」の中に計画されていたとおりだった。すべてが順調に進み、ローラは「癒しのエキスパートドッグ」プロジェクト内のサブプロジェクトを次々と達成していった。それも魔法のようだったが本物の奇跡はそのあとに起きた、とローラは言う。

ローラは病院を恐れていたため、患者訪問を引き受けた後も、院内の小さい子供がいるような場所には決して行かず、リハビリ病棟のような「気持ち的に楽な」場所だけを訪れていた。

ローラとアポロがメディカルセンターを訪問するようになってからすでに2年ほど経っていたが、それでもローラには、センター内に避けたい場所が何箇所かあった。しかし、この奇跡の日、ローラとアポロはたまたま、そういう場所の一つである小児科集中治療室の近くを歩いていた。すると、小児患者の親の一人が治療室から駆け出してきてローラに「あなたの犬?セラピードッグよね?娘の病室に連れてきてもらえないかしら。娘は今、小児集中治療室に入っているの」と言った。

ローラは、たちまち怖気づき、これが一番恐れていたことだわと思った。だが、この必死の嘆願を断ることはできなかった。ローラは、病院の事務局で必要な手続きを済ませてその女の子の病室に入っていった。ベッドには、美しい青い目をした少女が枕にもたれて座っていた。少女の目は大きく見開かれていたが、虚ろだった。

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いつもなら、アポロを患者のそばまで連れていくと患者がアポロを撫でてくれる。ときには、アポロがベッドに飛び乗って患者の足元に座ることもある。しかしこの日のアポロは、あたかもやるべきことを理解しているかのように、自分でベッドの上に飛び乗って少女に近寄っていき、真正面から彼女の虚ろな目を見つめたのだ。アポロはただずっとそうしていた、とローラは言う。アポロが何をしているのか、ローラにはまったく分からなかった。むしろ、アポロが少女の顔を舐めたりしないかと心配していた。セラピードッグが患者の顔を舐めることは禁じられているからだ。

やがてアポロはベッドから飛び降りた。ローラは、少女がずっと目を見開いたままなのを妙だなと思ったことを覚えている。父親は我が子に、眠っている子に対するように話しかけていた。母親はひたすら祈り続けていた。病室には、悲しみと絶望が漂っている。ローラは、少女の両親が「ヘレン、ほら犬が来たよ。アポロが会いに来てくれたよ」と繰り返し言い続けているのを奇妙に思ったが、それ以外は、この少女のどこが悪いのかは全く見当がついていなかった。

ローラは、戸惑い、少し気落ちした。そして少女の意識がもっとはっきりしたらまた訪問すると約束をして、アポロと共に病室を出た。このときローラは、少女が何ヶ月も深い昏睡状態にあったということを、知る由もなかった。

少女の病室から出て自分の車の中に座っているとき、病院の院長から電話がかかってきた。ローラはこの病院で2年間ボランティアをしていたが、院長から直接電話を貰ったのはそれが初めてだった。ローラはたちまち不安に襲われて「何かのコードを踏んだかしら、それともカテーテルを外してしまったかしら?」 と思った。心配のあまり、電話を取れなくなりそうだった。電話に出てみると、院長は、小児集中治療室の少女を訪問したかと尋ねた。ローラがためらいつつ、訪問したと言うと、院長は「何が起きたか聞いていますか?」と尋ねる。ローラがおずおずと「いいえ」と答えると、院長は大きな声で「あの子が目を覚ましたんですよ!昏睡から覚めたのですよ!」と言った。

どういうことかとローラが尋ねると、院長は、「あの少女は昏睡状態のまま、うちの病院に転院してきた子です。それから10日以上経って、うちの医師たちもご両親に『仮に意識が戻ったとしても、恐らく脳に損傷を受けているでしょう』と告げました。しかし実際には、昏睡から目覚めない確率の方が高かったのです」と説明してくれた。

院長によれば、少女は、ローラとアポロが病室を出た数分後に目を覚まし、声を上げて笑ったそうだ。第一声は「アポロはどこ?」だったという。完全に正常で後遺症もなく、翌日に退院する許可さえ降りた。昏睡状態の間、少女はどこかをさまよっていたらしい。アポロが少女を笑わせたおかげで、少女は意識を取り戻し、帰ってくることができたのだ。少女は、昏睡中のことは一切覚えていないが、自分を笑わせてくれた愉快な犬のことだけは覚えている、と言った。

それから何年も経ち、今ではローラの「癒しのエキスパートドッグ」プロジェクトには犬と人間のチームが30組いる。ローラは、この9年間にアポロと共に1000人以上の患者さんを訪問し、一般の雑誌や医学雑誌でも採り上げられた。ローラは、家族とアポロ、そして他の2頭のスタンダードプードルと一緒にカリフォルニア州サンタモニカで暮らしている。そして、この全員が知っている。「奇跡は起きる」ということを。

 

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