記事 「NPOの変革は、真実を語ることから始まる」 ―― アンストッパブル・カンバセーションズ、 CEO ヴィック・マラジ氏にインタビュー ――
数々の政府、非営利団体に変革を起こしてきたコンサルタントが、そのシンプルな組織変革の方法を語る。
ハフィントンポスト
デニシャ・バロー
2013年11月13日
ヴィック・マラジさんはコンサルティング会社、アンストッパブル・カンバセーションズ(訳注1)のCEOとして二つの大きな役割を担っている。一つは様々な分野の研究を学んで自社のプログラムの革新を進めること、そしてもう一つが社員の能力拡大を通じて顧客により素早く深いインパクトを与えることだ。
訳注1 社名のUnstoppable Conversationは、何事によっても止められない会話の意味。企業、政府、非営利団体向けのコンサルティングプログラムやコーチングを提供している。
これまでに様々な組織と仕事をしてきたヴィックさんだが、2008年にパワフルな「目覚め」を提供するランドマークワールドワイド・ブレークスルーテクノロジーコースに参加して、自らの人生全体を貫くような洞察を得た。それまで「当然のこと」として疑いもしなかった自らの物の見方が、まさに人生にも、そして人生で可能なことにも限界を作っていたことに気づいたのだ。それに続くトランスフォメーションの過程でもう一つ、人々と共に本当の違いをつくるためには何が必要であるかも発見した。ヴィックさんはここ13年以上にわたって、「革新的な違いを引き起こす会話(game-changing-conversations)」について講演し、講義し、ファシリテーションし、コーチングを行い、また自らもそのような会話を率先してきた。彼が関わった政府機関・企業・非営利団体・委員会・チームは劇的な変革を遂げた。
ヴィックさんのクライアントには、NGOから国連まで、そして辺境の少数民族から国家政府まで、さまざまなレベルの組織が名を連ねる。例えばNGOのユナイティッド・ウェイ(訳注2)、カナダのヌナブト準州に住む少数民族、ドバイ首長国政府などだ。行き詰まりを見せていた「炭素回収と貯蔵」をめぐる40億ドル交渉を打開に導いたのもヴィックさんなら、王立カナダ騎馬警察に対して人質交渉を含む交渉技術の指導を行なったのもヴィックさんだ。個々人の生活に密着したレベルでは、地域コミュニティや組織、家庭内の人間関係や生活の質や未来のビジョンに持続的で建設的な変革を引き起こしてきた。
訳注2: ユナイティッド・ウェイ(United Way)は教育、保健、所得向上プログラムを提供するアメリカの非営利団体。
ヴィックさんは分子細胞生物学の修士号を持ち、その他にも、重大な対立(ハイステイクス・コンフリクト)の管理、存在論、集団行動論、神経言語プログラミング、人間の思考や行動形成における言語体系の影響などの分野で訓練を積んだ。現在、200名以上の従業員が働く国際的な教育デザイン会社の共同創設者かつ前CEOでもある。
そしてヴィックさんは、「私の特技は、足の指の中の小指だけを動かせることくらいです」と言い、このインタビューのために、あたかも第三者が書いてくれたかのように自分の経歴を仰々しく書かなくてはならなかったことを詫びた。
(記者) NPOや政府などの非営利セクターに共通する課題は何でしょうか?
(ヴィックさん) 非営利セクターの多くは、エンパワメント(能力開発)ではなく、慈善という文脈の中で活動しています。対象者が魚の釣り方、つまり自立する方法を学ぶことはほとんどないということです。これは非営利セクターに限ったことではなく、社会的な問題です。同じことが教育制度の中でも起きています。子どもたちが教えられているのは、どうやって自分の頭で考えるかではなく、何を考えるかということですから。多くのNPOや政府機関と実際に仕事をさせてもらっているうちに気づいたのですが、大抵は、真実は分かっているし誰の目にも明らかなのに、それに対する行動が取られていないのです。「部屋の中の象」としてよく知られた、ありふれた「見てみぬフリ」という現象ですが、これが人間というものの大きな一面です。そして、勇気をふりしぼって声をあげたメッセンジャーの多くは、社会で嘲笑を受けるか、排斥されるか、罰されるのです。
(記者) 非営利セクターについて、私たちが口にしたがらない真実とは何でしょうか。
(ヴィックさん) 私たちは、笑顔を浮かべながら実は互いに競い合っているということです。自己防衛をしているのです。協働(コラボレーション)も自己利益がある場合に限られます。そして、このように振る舞わざるを得ないようにゲーム自体が「仕組まれ」ています。その仕組みは、何十年も前に作られた政府の方針を通じて運営されています。これが私の立ち位置から見た真実です。これを言った上で明確に伝えておきたいのは、非営利セクターで働く人々は、「まさに英雄である」ということです。非営利セクターは最後の砦であり、社会を支える柱です。これが無かったら、政治、企業、保健、教育制度が機能しなくなるのは火を見るよりも明らかです。
非営利セクターは、ほとんどあらゆる文化の中に存在する、影に隠れた高貴な一面です。同時に、社会のどのセクターにも当てはまることですが、非営利セクターがいま直面している課題も、長い歴史背景があり、凝り固まっていて、一見制御不能であるかのように見えます。一見して明らかな困難としては、資金不足、資源不足、ボランティア不足、高い離職率、低い価値評価、低い給料、訓練や発展の機会の不足、政策や方針の欠如、政治的な拘泥、経済状況などです。この他にも言及しなかった課題がたくさんありますが、これらのすべての課題に共通するのは、どれ一つとして「現実の」問題ではないという点です。
(記者) では、何が本当の問題なのでしょうか。そして、その解決策は何でしょうか。
(ヴィックさん) 本当の問題は、私たちがコラボレーションしないということです。私たちが、全体が持っている、多くは重複した豊かな資源や人材や権限をうまく調整して一つの集合的な声にまで練り上げていない、ということです。コラボレーションは、心構え(マインドセット)としても、実際のプロセスとしても欠けています。ふつうコラボレーションは「一緒に集まること」と定義されています。あるクライアントが言うように私たちは、「せっせと問題に取り組む離れ離れの小島のように」振舞っています。
大きな変革はほとんどすべて、勇敢な人たちの率いる少人数のグループから始まっています。まず人が集まって互いに真実を語り合い、互いの違いを乗り越えるという困難な仕事を行い、それから、一人ひとりでは到底打ち勝つことのできない耐え難い状況に対して一心不乱に取り組み、打開してきたのです。答えは、物の見方を「私かあなたのどちらか」から「私とあなたの両方で」にシフトし、かつ、自分たちはいつも崇高だとか、大抵は崇高だとかいうフリをやめることです。
(記者) もしそれが答えだとしたら、少なくとも強力な答えの一つだとしたら、なぜ私たちはそうしていないのですか?
(ヴィックさん) そこが難しいところですね。共通の目標があって、技術も共有されていて、多くの場合は顧客基盤やサービス内容まで重なり合っているのに、なぜ私たちは真の意味でコラボレーションして、互いに力を寄せ合って大きな声を作っていこうとしないのか? なぜ、資源・情報・人材を共有しないのか?なぜでしょうか?それは、あまりにも多くの自己利益優先と生存本位の思考があるためです。「うまくやってのける」と「生き残ろう」という考えが、人間の活動のための、どうしても逃れられない文脈、コンテクストを形成しているのです。
私の立場から見れば明らかですが、非営利セクターには、競争・不足・犠牲・フリの文化があります。この文化がほとんどすべての非営利団体の思考の土台となっています。もちろん例外があることは念頭に入れておく必要がありますが。いま直面している困難な社会状況を決して過小評価するわけではありませんが、私たちの真の「敵」は、力を奪っていく、この文化です。これが、互いにどれだけ本物として付き合えるか、リスクを背負い得るかを制約する壁となっているのです。
(記者) 非営利セクターで働いている人の中には、今言われたマインドセットや思考の枠組み話を誤って理解する人も多いと思いますが、それに対してはどうお答えになりますか?
(ヴィックさん) 確かにその通りです。私の主張は、間違いなく、非常に物議を醸すものでしょう。私の見方を鵜呑みにしろと頼んでいるのではありません。自分の目で見てもらいたいのです。ちょっと立ち止まって、自分にもそんな経験がないかを見て欲しいのです。目を凝らせばあなたにも、この種の思考方法が蔓延していること、そしてその結果として、あなたもあなたの組織も常に、何とか生き延びてうまくやっていこうと四苦八苦しているのが見えてくるはずだ、ということです。さらにもっと目を凝らせば、この「何とか生き延びる」ことに駆り立てられているのがあなただけではないことも見えてくるでしょう。
ピーター・ドラッカーは「戦略は文化の力にはかなわない」と言います。いま蔓延しているような文化の中では、コラボレーションはどんなものになってしまうでしょうか?例えば、情報共有には非常に慎重になるし、決して完全な情報は渡さない。親切な人間を装いながら、水面下では蹴落とそうとする(笑顔を浮かべながら競う)。資金獲得のためなら、実際には上手くできないこともできると言う、または他所の団体と同じくらいはできると言う。組織というボートが沈まないようにさらに懸命に、さらに長時間働く。達成してもそれはつかの間で、失敗や脅威ばかりが強調される陰鬱な未来です。本当に骨身に染みるほど理解しなくてはならないことは、この未来では、私たち人類がコミットしているような本物の違いを作ることには失敗する、ということです。この未来は、人類のシステム全体にインパクトを与えるような機会を生み出さず、代わりに、今現在の慈善精神、つまり、「助けてあげよう」という答えしか持たない、変わり映えのしない事業を継続させるだけです。
私が言ったことすべてがあなたの組織に当てはまる訳ではないでしょう。しかし、もし私が指摘したことを掴んでいただけたら、何かがカチッと腑に落ちるはずです。真実が聞こえて合点がいくはずです。先に述べた「予測のつく未来」から脱出するための第一歩は、これまで「私かあなたかどちら一方」という類の思考モデルから人々と関わっていたという真実を、まず自分自身に対して認めることです。
(記者) 非営利セクターで働くプロとしては、今あなたが言ったことが自らにも当てはまると見えたら、これから何をすべきなのでしょうか?
(ヴィックさん)
1. いま一緒に仕事をしている人や、一緒に仕事をしようと企画したことのある人たち全員に対し、あなたが今までは、競争的・自己防衛的・生存的な観点という、非常に限定的なものの見方から仕事をしてきたことを伝えます。そして謝ります。冗談ではなく、本当に。
2. 今までそんな風であったことが、相手との真の共有やコラボレーションを望むあなたにどんな影響を及ぼしていたかを言います。あなたが隠してきたことも、言ったりやったりするのが気が進まなかったことも、すべて言います。あなたにとってはそれが現実であったことが相手に伝わるよう、具体的に話します。
3. これからは相手にパートナーとして関わることを約束します。そして、そういう約束をした人としてのあなたに関わってくれるように依頼します。仮にあなたが隠し事をしたり、フリをしていることに気づいたら、それを直ちに指摘して欲しいとも頼みます。
4. そして最後に、ハグしてキスし、本物のコラボレーションを開始します。互いに対する防御を解き、真に分かち合い、違いをつくりだす力を伸ばしていきます。
以上です。非常にシンプルで、とても勇気がいることです。
これまでにいくつもの非営利組織のクライアントと仕事をしてきましたが、今紹介したような会話をすることで、組織間のパートナーシップや、組織内の人間関係が根本的に変化するのを何度も目にしています。ご紹介した会話は、一瞬で人間関係にシフトを引き起こすトランスフォメーションのための会話です。「自分はただ、関係者全員のために存在している」という新しい自由をもたらしてくれます。
互いの関わり方を根底からシフトさせない限り、いつものやり方が継続するだけです。しかし、あなたがひとたび勇気を出し、先ほど述べたステップに従い、今まで他の人に覆いかぶせていたあなたの制限的なコンテクストを発見して相手に分かち合えば、あなたはその人との関係をシフトさせるのみならず、その関係においてこれから先、どんなことが可能になるか自体もトランスフォームします。
ブレークスルーテクノロジーコースなどのセミナーに関する詳しい内容は、
ランドマークワールドワイドの公式サイトをご覧ください。
ランドマークワールドワイド公式サイト