記事 パラドックスと可能性

失敗は二度とご免だ!とは誰もが思うこと。でも失敗を避け続けることのリスクはご存知ですか?

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うっかり熱いストーブに飛び乗ったことのあるネコは、以後、二度と熱いストーブに飛び乗ったりしない。それは結構なことだ。しかし冷えたストーブにも金輪際近寄らなくなる。こちらはあまり得策とは言えない。なにか物事が起きると、私たちは人間はそこに何らかの意味を付す。そして、ジェームズ・G・マーチが言うように、「大抵の人は、期待が外れる確率を下げるような意味をつける。ということはつまり、うまく行かなかった分野については、うまく運んだ分野と比べて知識が乏しいまま生きていくことになる」*のだ。

人間は、これこれはこれこれを意味するというように、あらゆることの意味の手かがりを求めて、絶えず森羅万象を探査している。マーチによれば、「これが確実に問題となるのは、私たちがある選択を最初に習得した体験の特徴が、いかなる理由であれ、それより後の体験の特徴と合致しない場合だ」。最初の体験とその後の体験の食い違いが見えてきても、私たちは、自分のあり方と行動の仕方が呼応する、かつて作った想定をなかなか手放そうとしない。お馴染みの想定を一切疑うことなく、すでに正体の分かっている物事を相手にして生きていくことは、私たちを限界づけ、「そこそこの人生」へと導く。

過去、現在、未来とは解釈であって、元々現実にあるものではない。このことが認識できれば、もっと多様に変化しうる相対的な世界を手にできる可能性が生まれる。今の自分のあり方や物事の見え方に縛り付けられる必要は決してない。トランスフォメーションは、変わり映えしない人生から私たちを蹴り出し、現状を一転させる力をもっている。トランスフォメーションは叡智と了解を携えてやってくる——私たち人間には、自分が何者であるかを選択できるという叡智と、人間が手にできる多種多様な可能性についての了解を。不明瞭さやパラドックスは人間を、陰影に富み、豊かで驚異に満ちた世界に繋がらせてくれるのだ。

* 参考 2006年10月ハーバード・ビジネス・レビュー『アイデアズ・アズ・アート(Ideas As Art)』にて、ダイアン・クーツ氏によるジェームズ・G・マーチ氏インタビュー記事
訳注 ジェームズ・G・マーチ(1928-)はアメリカ合衆国の社会学者、政治学者。スタンフォード大学名誉教授

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