J・T・シム氏、アメリカ臓器移植法の改正に挑み続ける

これは失敗についての物語だ——それも価値ある失敗の物語だ。

ランドマークの「自己表現とリーダーシッププログラム」(SELP)の中で、リーダーたちはこのように言う。「皆さんはプロジェクトで具体的成果を達成するかもしれないし、達成しないかもしれない。肝心なのはそこではありません。肝心なのは、あなたがそのプロジェクトの可能性から人生を生きることです」

 

J・T・シム博士は、経営修士号も併せ持つアメリカ人のランドマーク卒業生で、「自己表現とリーダーシッププログラム」(SELP)には2014年にフロリダ州オーランドで参加した。何でも興味を抱いたことを追求する根っからの学者であり熱心な研究者だ。アメリカ臓器移植法を改正して、より多くの人が生体臓器移植を受けられるようにするという継続的な闘いの推進者でもある。シム博士は医学分野の博士ではないことを強調しつつも、この法改正を進めることが医学界にとって重要なのだと信じていると言う。「プロジェクトが必要だということは分かっていました。実際に現実を動かすようなことをしたいし、この法改正はまさに現実の問題です。当時、私が目指したゴールは確か、『このSELPが終わるまでに改正法を可決する』だったと思います。もちろん全く現実的ではなかったのですが(笑)。それでも、『よし、このプロジェクトではそれを目指そう』と思ったのです」

 

現行のアメリカ臓器移植法の問題点

臓器移植法はアメリカ議会で1984年に可決され、その結果、臓器の売買は違法となった。これは表面的にはとても良いことだった。なぜなら、経済的に恵まれない人たちが臓器売買ビジネスの餌食にならないように、守れるからだ。しかし、シム氏は次のような問題点を指摘する。「今は、仮に誰かが人のために臓器を提供したいとしても、移植術後の経済的問題に対処することが困難です。なぜなら術後の6週間の回復期間中は働けないし、収入を失うからです。有給休暇が十分にない、などです。仮にあなたがその期間、生活できるように第三者がお金を出したとしましょう・・・すると、援助を受けたあなたが懲役5年と罰金5万ドルの両方を科せられることすらあるのです」

 

臓器移植法のこうした規定が足枷となり、臓器を必要とする人たちは「大体1時間に1人の割合で、死亡または高齢化のために順番待ちのリストから外れていく」という。シム博士には腎臓移植が必要な同級生や大学時代のルームメイトがいるし、新しい心臓を必要とするテキサスの学生の知人もいたため、この数字は単なる統計ではない。そして、腎臓移植などで行われる生体移植のドナーになることが、経済的な面でも誰にも可能な選択肢となるように法律を変えたいと願っている。「私の提言は、提供者が、儲けることもなく損することもない程度の補償金を受け取れるようにすることです。そうなれば、腎臓を提供した人たちが経済的苦境に陥らなくて済みます」

 

不可能な任務に取り組むことのメリット

臓器移植法改正のための闘いは、一度のSELPプロジェクトの期間内には決着しないことかもしれない。しかし、シム博士の挑戦は終わっていない。「不測の事態に備え、計画を立て、資源を特定することによって、何に取り組むのか、何を操作し何を仕組めばいいのか、などが分かってきます。それがこの闘いに勝利するために決定的に重要なことです。つまり、必ずしも結果ではなく、プロセスの方に大きな価値があります」

シム博士はランドマークのプログラムに参加する前から営業やリーダーシップの経験があり、あらゆる種類の人に対するコミュニケーションという点でも経験を積んでいた。それでもなおシム博士は言う。「ランドマークでのトレーニングが一因となりこのようなことができるようになっただけでなく、このようなことを簡単に、かつ自信を持ってできるようになったのだと認識しています。今やっていることすべてがランドマークのおかげだと言うと正確ではありませんが、ランドマークがこれをより強固にしたし、この途轍もない挑戦に私が勤勉に、集中して、構造的に取り組んでいく助けとなっていると言えます」

 

ノーを扱うこと、そしてイエスに備えること

多くのことに情熱を持つシム博士は写真家でもあり、予想される結果に関係なく、人々に楽に物事を依頼できるようになった。「大勢の人に声をかけますが、無視されるかノーと言われるかどちらかです。そういう反応にはすっかり慣れてしまいました。とても良い訓練になりました」。プロジェクトに関しても、直接人々と顔を合わせて、あるいは電話で依頼をするし、さらにはSNSを介して連絡したことも頻繁にあった。どんなに大量の「ノー」を貰っても動じず、人に依頼することにおいて彼は何にも止められない。そうなったことの最高の恩恵は、時折その依頼が、信じられないくらい素晴らしい「イエス」を引き出してくれることだ、とシム博士は打ち明ける。

法改正という目標に関しても、予想外の目覚ましい「イエス」をいくつか貰った。その結果、非営利団体「ドナー交換腎移植連合」(APKD)の共同設立者とのオンラインミーティング、元米国公衆衛生局長官のアントニア・シーロ・ノベロ氏との二回の面談などのブレークスルーが生まれた。「私はこのテーマを熟知していますので、面談の時間は合わせて3分から5分程度でしたが、この法改正に関して私が身動き取れなくなっていた事柄について的を射た質問ができました。ノベロ元長官も当然事情に精通していますから、即座に適切な助言を提供して下さいました。まさに稀に見る幸運の連鎖だと思います。米国公衆衛生局長官との面談できるなど、私の普段の生活ではあり得ないことでした!」

さらに、シーロ・ノベロ長官は、ミシガン州で初めて生体腎移植手術に成功した医師に連絡するよう勧めてくれた。「ノー」の返事を恐れず、同時に「イエス」の返事に対する備えがあれば、そこから驚くべき成果が生まれることがあるのだ。

 

粛々と実行する

シム博士は目標の追求に関して次のように語る。「その他にもランドマークのコースから学んだことは、行動を取ることでした。私は既に行動していましたが、もっと構造を作って行動するということを学びました」。 米国臓器移植法の改正はまだ実現していない。2018719日に議会に法案が提出されたときには可決されなかった。しかしシム博士はこの法改正を諦めていない。彼は「1984年から取り組んでいるのですから」と言う。ミシガン州の移植外科医のような医療専門家と話すと、その反応が励みになる。「今あなたに話しているように熱弁をふるっていたら、彼は『その通り、百も承知です』と言うのです。つまり、私が議員や政策立案者などに話をするときに共有している情報が正確だと私に教えてくれているわけです。それが知れて良かったですよ!」

 

参考(日本の場合)   平成九年法律第百四号  臓器の移植に関する法律

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80997711&dataType=0&pageNo=1

英文サイト

https://www.landmarkforumnews.com/j-t-shim-taking-on-the-national-organ-transplant-act/