記事 ゼロからの創作 「ハローと言おう、バンクーバー」
「都会の孤立した人間関係に、挨拶の輪を」ランドマークワールドワイドの卒業生、シェリーの願いが街ぐるみのプロジェクトに。
「シェリー・コーバトフは、バンクーバーで、ランドマークワールドワイドの「自己表現とリーダーシッププログラム(SELP)」に参加した。(訳注 文末に解説) 1回目のクラスルームのとき、シェリーは席に着くとすぐに他の人たちと同じように振る舞った。つまり隣の席の人たちと話し始めたのだ」。
ランドマークワールドワイドのイベントならいつものことだが、SELPのクラスルームでも参加者は互いにシェアを始めていた。内容は、何を目指してこのプログラムにきたのか、何を期待しているか、何を獲得したいか、などだった。胸に輝く名札が、「開けゴマ」とでも唱えたかのように会話のきっかけを与えてくれる。互いの名を自然に呼びあうことができるからだ。
この会場に漂う互いへの親近感やコミュニケーションの容易さ、高い目標を持つ人々が醸す雰囲気などが、シェリーにとっては、暖かく迎え入れられ、かつ刺激してくれるように感じられた。「普段の生活の中でも、こんなふうにオープンに知らない人たちと接することができないものかしら」とシェリーは思った。ふと浮かんだ考えに過ぎなかったが、なぜかずっと彼女の心に残った。
多分、シェリー自身がバンクーバーの「新参者」だったことで、この思いが強くなったのだろう。バンクーバーに来て以来、街や人々、そして近所の人とすらつながりがないと感じていたのだ。もともとバンクーバーよりずっと小さな町の出身で、そこでは町の人たちはたいてい顔見知りだった。顔を合わせれば挨拶を交わすし、自分自身がコミュニティの一員であると感じることができた。
こうしたことに思いを巡らせているとき、ひとつの可能性が閃いた。SELPのクラスルームの中で「それは日常生活にどんな違いを作り出すでしょうか?」という問いがなされたときのことだ。
「私は、これまでに様々な会合や大会に参加してきました。そういう場では、『こんにちは、私の名は〜』みたいなことは誰もやりません。たくさんの会議に出席していても、即座に打ち解けて話すことにこれほど利点があるとは、まったく気づきもしませんでした」
セッションが進んで行く中で、シェリーは、自分に芽生えてきたこの「ハローと言おう、バンクーバー」というアイデアをクラスメートの何人かに打ち明けてみた。すると、その反応は、「素晴らしいアイデアじゃないか!」「絶対やるべきだよ」「そのとおりだ、都会はあまりにも人間味がなさすぎる、やろうよ!」など、圧倒的にポジティブだった。
ところが今度は、彼女自身の気持ちが揺るぎ始めた。疑念が湧いてきたのだ。「周りからダサい人、ただの目立ちたがり屋だと思われるかも」と。そのような心配が募り、当初の閃きは消え失せた。「ソーシャルメディアのことは何も知らないし」「どうやってまとめあげたらいいか分からないし」「私一体なにを考えているんだろう。うまくいきっこない」等等、お馴染みの内面の堂々巡りが始まってしまった。
シェリーは、SELPプログラムの終了3週間前になってやっと、この堂々巡りに終止符を打ち、自分のアイデアに身を投じる覚悟を決めた。
「私は6人の人に電話し、金曜日のお昼に集まってブレーンストーミングをすることにしました。みんなに『ハローと言おう、バンクーバー』のための企画を話し、何を目指しているかを打ち明けました。私が作り出したかったのは、1日に60万人が「ハロー」と挨拶し合うということでした」。
さらに、迫り来る締め切りについても打ち明けた。チームのみんなから見放されませんように、と願いながら「これを3週間で実現したい」と、告げたのだ。
チームの電撃結成以来、このプロジェクトは一気に飛躍し始める。チー厶メンバーの6名は、シェリーの職場であるシエラシステム社の同僚だった。全員が一斉に動き始めた。自分たちの時間を提供してツィッターのアカウントを設定したり、フェイスブックページを作成したり、「ハローと言おう」バッジもデザインした。わずか72時間後の月曜日朝7時半には、フェイスブックにこの企画の情報が投稿されていた。
その月曜日を起点として、シェリーのプロジェクトは雪だるま式に拡大していった。ソーシャルメディアだけでなく、ラジオやテレビが、「ハローと言おう、バンクーバー」についての情報を競い合って報道した。
シェリーは大勢のレポーターに繰り返し語った。「一言、『こんにちは』と声をかける ―― それは、壁を打ち破って人と人とを友人としてつないでくれるすばらしい方法です」 それはまさに魔法の言葉だった。彼女が繰り返し唱えれば唱えるほど、プロジェクトはみんなに知られていった。バンクーバーの新しい祝日「ファミリーデー」(*1)の第一回目とたまたま重なったこともあり、シェリーの知らない人たちも、「ハローと言おう」に賛同し始めた。
訳注*1) 2013年2月11日(月)に初めて、バンクーバーでファミリーデーが制定された。スキーやスケート、釣り、コンサートなど、家族で楽しむ様々なイベントが開催される。以降、毎年2月の第2月曜日にファミリーデーを祝っている。
シェリーはこう語る。「とても感動しました ―—— このアイデアが、人々に、そして人々の心にどう共鳴していったか、に。私だけではなかったのですね。私はとても社交的な人間なのに、バンクーバーにきて2年経っても、たくさんの人と出会う機会を作り出していませんでした。同じように感じている人は沢山いたのです」
フェイスブックでのリリース後の第1週には、メディアに大々的に採り上げられ、それが街中に、やがて国中いたるところに広がっていった。2週目になると報道が一旦途絶えたため、チームメンバーは、盛り上がりが早く来すぎたのかもしれないと恐れた。ところがそうではなかった。3週目には、ハフィントンポスト(*2)に記事が掲載され、さらにラジオやテレビからも情報提供の依頼が来た。このプロジェクトを支持するフラッシュモブ(*3)まで行われたのだ。
訳注(*2) ハフィントン・ポスト(”The Huffington Post”)は、米国のリベラル系インターネット新聞。様々なコラムニストが執筆する論説ブログおよび各種オンラインメディアからのニュースアグリゲーターで、政治、メディア、ビジネス、エンターテイメント、生活、スタイル、自然環境、世界のニュースなど幅広い分野を扱う。
訳注(*3) フラッシュモブ(”flash mob”)とは、インターネット上や口コミでの呼びかけに応えて、不特定多数の人々が申し合わせて雑踏の中の通りすがりを装って公共の場に集まり、何の前触れなく突然ダンスや楽器の演奏などのパフォーマンスを行なって通行人の関心を引き、即座に解散する活動。
初めての「ハローと言おう、バンクーバー」は、2013年2月8日に開催された。シェリー、チームメンバー、そしてどこからともなく現れたボランティアたちは、街へと繰り出した。何時間も、見知らぬ人たちに声をかけ、「ハローと言おう」と書かれたバッジを手渡して、このプロジェクトの必要性と目的を説明した。ロブソン広場では、一緒にバッジを手渡したいという人が6人現れて一行に加わった。「じゃ、散歩にでかけましょう」とシェリーが声をかけ、バンクーバーの中心部をみんなで歩いた。街角から街角へと。
一人の女性の願いから生まれたことが、何千、何万の人たちの笑顔と友情へと広がっていったのだ。後日、シェリーがチームメンバーと話したとき、全員が、「あの3週間が現実だったなんて信じられない!!」と驚喜した。
「私がこのプロジェクトの会話を途中でやめていたら、このような成功はなかったでしょう」とシェリーは振り返る。「初めの頃に私の中で発生していたあのネガティブな会話は、これからだって出てくるでしょう。でも、そういう会話に勝ちを譲る必要はないのです」
2013年の成功を受けて、「ハローと言おう、バンクーバー」プロジェクトは新たな人々に引き継がれ、2014年に再び実施された。将来の継続のための土台ができたようだ。
訳注 「自己表現とリーダーシッププログラム(SELP)」について
「自己表現とリーダーシッププログラム(SELP)」は、グローバルな人材育成訓練企業であるランドマークワールドワイド社が提供する、コミュニティ貢献プロジェクトを通じてリーダーを養成するプログラム。
参加者が自らのコミュニティを定義し、それに変革をもたらすためのプロジェクトやイベントを企画する、その運営を通じて、効果的にリーダーシップを発揮したり、周囲の人々をリーダーとして力づけていったりするために必要な技能を訓練される。4回の週末プログラムと週一回のクラスルームという構成。
自己表現とリーダーシッププログラム(SELP)からすでに世界中で10万を超える、コミュニティのための非営利団体や活動が誕生している。
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